Kアイドルとの距離感

 つい先日、Twitterに「KPOP聴くのつかれた」と呟いた。正確に言うと、私が定義するKPOPはKアイドルのことだし、Kアイドルの曲を聴くのが疲れたというよりも、Kアイドルとそのファンダムとの距離感がだんだんおかしくなってきていることに疲れてきているのだと思う。

 

 去る4月、ASTROのムンビンさんが亡くなった。そのニュースはあっという間に世界中に伝播し、誰々が病院に駆け付けたなど、信憑性の低い情報が瞬く間に広がっていった。ASTROの事務所であるファンタジオが設置した故人を偲ぶためのスペースに書き残された著名人の手紙は、すぐに写真に撮られ、複数言語で翻訳されてTwitterTiktokを駆け巡った。この時点でも、アイドルがひとりの人間として、静かに故人を偲ぶ権利が失われているように思う。そのひとつひとつの投稿を有難がるようにファンは消費を続けているさまに、私は違和感を覚えざるを得なかった。(確かに突然の死だったためにファンも心を落ち着かせるにはそういう投稿を見続けないと気が済まない面もあったとは思う。)

 私はSEVENTEENというグループのことが好きで、情報を追っている。SEVENTEENのメンバーのひとりであるスングァンさんはムンビンさんの大の友達で、当然ながら彼の死に大きなショックを受けていた。ムンビンさんが亡くなった直後のスケジュールはキャンセルし、舞台に立っていても表情は暗い。7月、彼は活動休止をすることを発表した。

 彼が活動休止をしている間、故郷である済州島に帰省していたらしい。その際にSEVENTEENのメンバーであるミンギュさんが単身済州島に訪れ、スングァンさんと時をともにしたということだった。

 しかし、上記の情報は、本人の口から発表されたことではなく、現地に立ち寄ったファンの投稿により明らかになった。この投稿は瞬く間に拡散され、「ギュブ(ミンギュさんとスングァンさんのケミ名)尊い」「特大ギュブ」などといった言葉で埋め尽くされた。

 おかしいと思わないか。もちろんKアイドル文化としてケミを作ってその関係性を考察されたり、楽しんだりされることは、彼らの生業のひとつであるとも思う。しかし、今回のような傷心している人を慰めにわざわざソウルから済州島まで飛んで行ったミンギュさんの行動は「ギュブ」などといったふたりとは関係のない見ず知らずのファンが外側から勝手に作った枠に抑え込んで沸き立つような出来事ではなくて、ミンギュさんのスングァンさんへの純粋で大きな愛による出来事だと思う。そこにファンの入る余地はなく、だからこそもっと丁寧に扱うべきだった。丁寧に扱うどころか、何にも触れないのが正解だったように思う。それが彼らを人間として大切にするファンのあるべき姿勢だったのではないか。

 

 人間同士の関係に勝手に名前を付けて消費することの暴力性を目の当たりにした出来事だった。それ以来、SEVENTEENのファンダムからは距離を置くようにしている。SEVENTEENのファンダムだけではなく、どこのグループのファンダムにも起こりうる(既に起きている)ことであるため、Kアイドルのコンテンツを観るときには、アイドル同士の関係性に深く頭を突っ込むのは避けたいと思う。それが正しいアイドルとの距離感だと思うから。