宮城岩手旅行記 2日目 盛岡①

 4泊5日の旅行の2日目。

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 朝8時に塩釜を発つ。盛岡に用事があって早く出発したけど、市場でお勝手丼食べたかったなあ。

 車の中でひと眠りし、気づいたら盛岡に着いていた。インターを降りて、急いでフェザンに向かう。おでんせ館のレストラン街に着いた時には、11時のオープンに向けてすでに多くの人が列をなしていた。最後尾に並び、オープンを待つ。

 11時のオープンとともに、殆どの人が白龍に吸い込まれていった。私達も迷わず白龍に入る。白龍は盛岡三大麺の冷麺、わんこそば、じゃじゃ麺のうち、じゃじゃ麺の元祖のお店だ。幼い頃に盛岡の祖父母に会いに来た時には盛岡城跡公園の目の前にある本店によく通った。本店は私が初めて行った12年前にはすでに年季が入っていて雰囲気があった。地元の人と観光客が肩を寄せながら暑い店内でじゃじゃ麺をすすっていたことを最近のことのように思い出す。フェザン店はかなり新しいけれど、店員のおじさんおばさんの本店同様のさっぱりとした接客に「ああ、盛岡に来たなあ」と思う。

 一気に満員となった店内で、じゃじゃ麺とちいたんたんを注文する。じゃじゃ麵の麺は茹で上がるのに13分かかるから、その間は店に静寂が流れる。まるで来たるじゃじゃ麵との闘いに挑むために士気をためているようだ。

じゃじゃ麺

 じゃじゃ麺にはしょっぱい肉味噌ときゅうり、しょうが、紅しょうがが乗っていて、お好みでにんにく、酢、ラー油などを加える。酢を入れず、にんにくを多めに、ラー油は辛いから少しだけ加えるのが私流のじゃじゃ麺の食べ方だ。じゃじゃ麺は食べる人によって全然別物の食べ物になることを許してくれる懐の深い料理だ。うま味の強い肉味噌がすべてを丸く収めてくれる。

 わしわしと、急いで食べるくらいがじゃじゃ麺を食べるにはちょうどいい。コシのある麺の喉ごしを楽しむ。

 麺を9割方食べたら、テーブルの上にある卵をひとつ割り入れて、白身を切るように混ぜる。黄身は軽くとく程度にしておく。ここまで出来たら店員さんを呼び、器に熱々の麺のゆで汁を入れてもらう。肉味噌や調味料を加えて、ちいたんたんの完成。

ちいたんたん

 半熟のかきたまが濃厚で美味しい。沢山の麺を茹でたゆで汁を使っているからか、うま味を強く感じる。熱が入ったきゅうりのしくしくとした食感も面白い。麺を食べ、汁を飲み干すと、すっかり汗をかいていて、達成感で満ち溢れた気持ちになる。

 

 じゃじゃ麺を食べてエネルギーチャージをした後は、今回の旅行のいちばんの目的であったBOOKNERDに向かった。盛岡駅からBOOKNERDがある紺屋町まで歩いて約30分、横殴りの雨と強風に煽られながら盛岡の街をずんずん歩く。川徳の前で傘が折れるハプニングがありながらも、なんとか到着した。ずぶぬれになった体をハンカチで拭いていると、紙面やインターネットでしか見たことのないBOOKNERD店主の早坂さんが出迎えてくれた。その日の盛岡は急に寒くなったから軽く天気の会話を交わし、落ち着いたレコードの音とお香の香りのする本の世界に入る。

 インディペンデントな本屋というだけあり、ZINEやリトルプレスの取り扱いが多く、宝物を探しているようだった。ZINEはISBNがついたある程度大衆に向けたものしか読んだことが無かった(ZINE出身の人が書いているだけでZINEとは呼べないのかもしれない)。消費社会にどっぷりと浸かっている自分が読むのは後ろめたいという理由でZINEには苦手意識がある。それでも盛岡の人達が丁寧に街の雰囲気を作っているのが伝わってきて、私もすっかりそんな気分になって、「B面の歌を聞け」という有名なZINEを1冊手に取った。

 その他に店主の早坂さんが盛岡の喫茶店について書いた「コーヒーを、もう一杯」と東吉野の私設図書館ルチャ・リブロの青木海青子さんが書いた「本が語ること、語らせること」の計3冊を買い、BOOKNERDを後にした。

 

 BOOKNERDで買った本を読みたくて、近くのクラムボンという喫茶店に入った。「ハンドドリップですから時間をいただきますがよろしいですか」と尋ねられ、もちろん、と返事をする。こんなにのんびりとした空気が流れている場所にも時間に追われた怪物が現れるのかもしれないな、と少し悲しい気持ちになる。くるみプリンとブレンドコーヒーのセットを頼み、本を開く。「コーヒーを、もう一杯」にはクラムボンのことも書かれていて、今この場にいるのに違う視点から同じ場所をみているという不思議な感覚に陥りながらコーヒーを待つ。

くるみプリンとブレンドコーヒー

 くるみプリンはやさしさが味になったと言えるくらいやさしくて、くるみの粒々とコクが美味しい。コーヒーも酸味が無く深い味がして好みだった。

 時折常連らしきマダムがコーヒー豆を買いに来る。店主さんとマダムの会話も天気の話でもちきりだった。地元の人にとっても寒い朝で、雪も降ったらしい。セーターをもってきて正解だった。

 会話、焙煎の音、ハンドドリップのお湯の音、確かに音があるのに静けさがあるクラムボンはのんびりするのにぴったりなところだった。この静けさが、心を開放してくれている気がする。

 

 クラムボンでのんびりした後、紺屋町を散歩した。しばらくうろうろ歩いた後、民藝品を扱うshop+space ひめくりに入った。いろいろ見て回って一番心惹かれたのは秋田の星耕硝子の背の高いグラス。メロンソーダやパフェが入りそうな見た目で、ボディの部分のひねりが光を反射していて素敵。グラスの透明につられて私の心も透き通る。民藝品を見ていると背筋がシャンと伸びる。いつか、いつか私が私の生活を恥じずに胸を張れるようになったら…と後ろ髪を引かれながらお店を後にする。あこがれのグラスを買える日が来ますように、いや自分で掴み取っていかないとな、と思う。ふと、盛岡出身の作家くどうれいんさんのエッセイ「あこがれの杯」を思い出す。

 

 盛岡に縁ができて12年経ったにもかかわらず、一度も足を運んだことのなかった盛岡城跡公園を散歩することにした。公園に入る前に、白龍の本店や中津川、パァク、リーベ、六月の鹿などの前を歩いた。GW後だからなのか、どこも営業している気配がない。また盛岡に来る理由ができたなあと思いつつ、盛岡城跡公園に向かう。

 櫻山神社にお参りをし、公園に入る。盛岡城跡公園は思った以上に広くて(お城なんだから考えてみれば当たり前だが)全部回りきることはできなかった。広い敷地内を歩きながら、この日1日の盛岡での出来事を思い出して嬉しくなったり、なにか示唆めいたことを考えたりしながら過ごした。途中、石川啄木宮沢賢治の石碑を見つけ、盛岡の文学土壌の豊かさはこの2人の偉人による影響が大きいんだろうなとぼんやり思ったりした。

東北では丁度藤の季節

 ああ、満喫した、ホテルに向かおう、と大通りを歩いていると、さわや書店の前を通りかかった。今日はもうBOOKNERDで本を買ったし…と思いながらも、有名なポップが見たくなって入店。結局「いわてのZINE Acil 麹をつくるひと」を購入。ZINEへの苦手意識はどこへいったのやら。

 

 午前中に振っていた雨も上がり、開運橋からは岩手山が良く見えた。

岩手山

 開運橋近くの東北ドリッパーズでコーヒーをテイクアウトし、ホテルに到着。家族と合流するまで、ロビーのテーブルでBOOKNERDで買った本を読んでいた。

 

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