20231215

 起床。外は雨が降って静かだ。凛としているような、ただの静寂のような。外の天気に引っ張られ、心の中にしん、と影が落ちる。憂鬱な朝を蹴とばすように、無理矢理布団を剥いだ。

 

 2か月前に申請した障害者手帳を受け取りに市役所に行く。窓口にはすぐに通され、あっという間に手元に障害者手帳(手帳と言えどカードなのだが)が現れる。自分には縁がないと思っていた障害者の呼称。4年ほど前からうっすら意識していたが、今日、ついに障害者になるのだ。あっさりと手続きは終わり、透明な水面に一滴落としたような墨汁のように、空も心も曇天だ。障害者になるってこういう心持ちなんだ。前向きに障害と向き合うために申請したけれど、どこか心に引っかかって寂しい。

 

 カウンセリングを受けに行く。1年半続いたカウンセリングも残りあと2回だ。

 「認知行動療法精神分析を受けて、今まで自分にとって不利だった認知が、より状況に適したものになり、日常の些細なことで一喜一憂することが少なくなりました。今までならすぐに結果がでないと怖くて何度も確かめてしまっていたけれど、今はゆったりと構えていつか結果が現れるだろうと思えるようになりました。」

 カウンセリングが始まった当初は、認知行動療法の手法に意味を感じなくて、途中で中断してしまうことが多くあった。それはすぐに結果が出ない恐怖や、このまま良くならなかったらどうしようという不安から来ていて、それに翻弄されているからだった。今は、そのようなカウンセリングの積み重ねが言葉にならないところで形になっていることを実感していて、その積み重ねによるセレンディピティを信頼できている。

 

 「引越しまであと1か月ですね。心持ちはどうですか。」

 「今まで数回一人暮らしをしたけれど、そのときに負ったトラウマを忘れられていなくて、どうしても不安になります。」

 「もちろん、今までの経験や記憶は消え失せるものではありません。見慣れた駅名などを見ると、過去のことが想起されて辛い思いをなさるかもしれません。でも、今までカウンセリングや診察、ご自分でなさった認知行動療法、生活の練習、現在のご自身を形づくっているものは、辛い経験をした後に改めて獲得したものです。新しく生まれ変わったようなものです。これからは、あの時辛い思いをしたからと憂鬱になるのではなく、新しい自分が新しい経験をするという心持ちで、新しく頑張れるといいですね。」

 新しく頑張る。つい私は、以前辛い経験をしたから、それに対策を打つように抜け目なく行動しないといけないと思っていた。それも大事だけれど、心機一転、新しい自分で頑張るのもひとつの手かもしれない。晴れやかな気持ちになり、カウンセリングルームを後にした。