日が沈む梨

 「嫌なんですよね、梨。」

 高校3年生の夏休み、学校に向かう途中で部活の顧問にこう漏らした。

 

 もう5年くらい、季節が進むのが怖い。初めは大学受験が近づいてくるから。最近は、年齢と人間としての中身が一致していない気がするから。

 スーパーの果物コーナーは季節を如実に反映している。果物好きの私のために、母は冷蔵庫から果物が絶えないように買い物をする。もちろん、果物は好き。甘くて季節感があって。でも、初物の果物が食卓に上がると、毎回うろたえる。

 またひとつ、季節が進んでしまった。私は?私は進んでいるのか?

 頭でぐるぐる考えているうちに、味もわからないまま果物を食べきってしまう。

 

 「どうして梨が嫌なの?」

 「また季節が進んで、夏休みも終わって、受験が佳境に入るなと思うと憂鬱なんです。梨が出てきたってことはもう秋ですよね?ああもう、日も短くなって、憂鬱だなあ。」

 

 果物を季節のメタファーとして捉えないで、ただ果物として美味しく食べられるようになりたい。