20231005

 眠れない夜だった。布団を頭までかぶっても夢をみられない夜。家族が起きないように静かに階段をおりて、しんと静かな真夜中をリビングで過ごす。

 かんたんな葛湯を作って飲む。鍋に片栗粉と砂糖と水をいれ、くるくるとスプーンでかき混ぜながら透明になるまで火にかける。まるで絵本に出てくる魔女みたいに。水が透明になってスプーンが重たくなる瞬間が好きだ。幼い頃から似てると言われるリトルミイのマグカップに葛湯を入れて、生姜をすりおろす。少し粉っぽい匂いのなかに、甘い生姜の香りが立ってくる。ひとくち飲んで、ほっ、と息をもらす。長くて短い夜のはじまり。

 江國香織の「すみれの花の砂糖づけ」を読む。危うさをはらんだ少女と官能的な女性を行き来する詩の数々にはらはらと心を揺り動かされる。レストランのバター、という詩がある。わたしの人生も、レストランの銀のうつわに入っていたまるいバターのようにさしだされていると思いこんでいた。

 ひとりぼっちの夜が明けた午前5時。少しずつ外に人影が行き交う。ベッドに戻り、すこしの睡眠。

 

 午前8時。朝ごはんはカレーを食べて、散歩に出かける。近所の公園では、老人会の集まりでグランドゴルフ大会をしている。ゲートボールというと、グランドゴルフ、と直されるほど、プライドを誇るスポーツらしい。今日は1kmを9分で歩けて満足だ。

 家に帰って勉強をする。外からはどこかの家から聞こえる大音量のテレビの音、トラックやバイク、ヘリコプターの轟音。今日は勉強するには少しにぎやかだったみたい。

 午後1時。 お昼ごはんにお稲荷さんと崎陽軒のシウマイ。家族そろった食事のありがたさ。

 秋風が吹きこむ部屋で少しの昼寝。昨年旅立った祖母と歓談する夢。わたしは親戚の中でいちばん年下だから、祖母とひざを突き合わせて会話をしたことがない。最期はぼんやりしてしまった祖母だが、聡明で素晴らしいひとだった。こうやって話せたらよかったのに。

 午後4時。おやつに栗きんとんを食べる。ほろほろと淡い食感は淋しささえおぼえる秋にぴったりだ。

 

 夕立。一気に秋めいていく季節を、私は追いかけることしかできない。